手術痕

手術した胸は変形を続けている。
放射線治療で一時期腫れたようになっていたが、今はまたしぼみだした。
肉がないところは凹んでいる。

仕方がないとはいえやはり時々心が痛む。
健乳の自然なかたちと比べてしまう。

胸は意外と重く、左右バランスがおかしくなる。
背骨が曲がってしまうほどに。
だからおもりが必要らしいが、まだ胸のおもりは入れていない。

胸の手術痕に落ち込んでいたが、どうも私の胸の手術痕はかなり気を使って手術してもらったらしい。
確かに、乳がんの手術痕の写真を見たらちょっと違う。
こんな感じ。
分かるかな?
通常乳房に横一線切れ目を入れて中の腫瘍を取り除くのだが、私の場合結構な大きさにもかかわらず、一見縫い目が見えないように乳輪回りにそってメスを入れてくれた。
乳輪から上にも切り込みを入れ、皮膚も一部切り取っている。
皮膚にも浸潤している可能性があったからだ。(実際皮膚にも浸潤していたと思う。この事実だけでもかなり進行が進んでいたことが、後になってじわじわ理解してきた。)

胸のかたちは変形したが、実は主治医はかなり気を使って手術をしてくれたことが、後になって分かった。
乳頭近くの腫瘍にも関わらず、乳頭を残せるようにしてくれた。
(切り取るケースもあり)

主治医が「気に入ってくれると思うけど」と自信ありげに言ってたのはことことか…!
と、かなり後になって気づいた。
ありがとう、主治医。

抜糸し忘れてたのはどうかな…と思ったけど、それを見たからこそ主治医の気遣いの縫い方(?)がわかったというか、他の外科の先生もそう縫われてると思うんだけど、「ふわっと」縫う技術が施されていた。
家庭科を習った人なら分かると思うが、最初に「玉結び」を練習すると思う。
一つ一つ、玉を作っていく。
ああいうのがいくつも乳首まわりについていた。これが「ふわっと」のポイントらしく、きれいに仕上げるにはこうするそうだ。
ナイロンの太い糸で縫い付けられてあったので、
「溶ける糸で縫わないのですか?」と訊くと
「あれは仕上がりが悪いから」と主治医は答えた。
美的によくないので、表皮にはあまり使わないらしい。(もちろん私の場合はであって、全てがそうじゃないと思う。)
しかし、中の筋肉の縫合には溶ける糸を使っている。
たしかに、手術をした胸を触ると、切ったであろうあたりの筋肉はかなり縫合後のふくれあがりを感じる。
(けがしたときに盛り上がったりするやつ。そんなイメージ)
そして、そこはまだ痛い。

当初は「がばっと取ります。がばっと!」の言葉に絶句し絶望したが、ガンは小さくは切れない。腫瘍をきってしまうと飛び散ってしまうから。
私は娘結節という、主腫瘍とは違うところにもしこりが後2つあり、結構な範囲の組織を取らなければならなかった。
そういうことも全く分からずただただ泣いていたが、手術直後から腕をあげれたし(直後に引っ張られた…)指も動くし(当たり前と言えば当たり前かもしれないけど、当たり前のレベルであるってすごいと思う)、主治医は手術がうまいんだな、と改めて思った。

主治医曰く、外科は労働者、病理医や抗がん剤開発する医者の方がずっと賢いとご謙遜されているが、きっと病理医がガンであるか、どんなタイプかの診断を、外科医が慎重に場所の特定を決めて初めて手術できるのだろう。

手術前にどういう仕上がりかってほんとに想像ができない。
いくら他の人の写真を見ても、それが自分の体にどうなるかは一つとして同じ例がないと思う。

そして、私はやっぱり再建したいなと思う。
しかし、自家組織(お腹の肉)を使うとなると、また体に傷が残る。
シリコンだと保険がきかない。

まだまだ悩みどころがつきないが。
最大の関心事は次のCT。
再建手術も、再発、転移がなければ、の話なのだ。
無事にがんが見つからないことを祈るばかりだ。