主体的なサバイバーを目指して

時々私は自分ががんにかかっていたこと、今も治療中であることを忘れる。
日々の生活はそれなりに忙しく、また生きていくために知恵を絞らねばならない。
がんのことだけを考えていた時期とは違い、生活の様々なことに悩まされるが、「がん=死への恐怖」から開放される事は間違いない。

しかし、完全に忘れているわけではない。
先日、ツイッターでお世話になっていた方が亡くなった。
正直ものすごくショックだった。
亡くなった事もだが、何も返せなかったことに。

私はがんを告知された後は、いい患者ではなかったように思う。
怖くて、その恐怖心に対抗する術を持っていなかった。
知ることも拒否したかった。
とにかく、自分の身体を切られることが信じられなかった。
体が変形して生きていけるのか、全く自信がなかった。

当然私のことを嫌う人もいたと思う。
もっと重篤な人や医療知識のある人からすれば、何をぎゃーぎゃー騒いでるんだ、といいたかっただろう。
そのなかでも、そのお世話になった人は常に変わらず、優しく、力強く、励ましてくれた。
今になって思えば、彼のほうがしんどかったはずだろうに。
今も、会ったことのないその人の寛容な態度に、涙が出てくる。

そして今日、久しぶりの検診を受け、主治医と軽快な会話を交わしつつ、やはりがん患者であることを思い出した。

「前回の検診で、トリプルネガティブは食事制限しなくていい、と言っていたが、あの後学術資料や研究データを調べたら、やはり食事制限はしたほうがいいとありました。」
と主治医が教えてくれた。
うちの主治医は、私の脳のMRIの撮影予約や抜糸は忘れるが、こういうところは忘れていないようだ。
あはは。
「そうですか。では気をつけます。(2日前ヤキニク食ったとはいえない・・・)牛肉に気をつけるということは、乳製品もですか?」
「そうやね・・・気をつけたほうがいいね」
「そのデータはアメリカのものですか?」
「そうなの、疫学も日本は遅れてるから。」
「でも有効データではないんですよね?」
「そう。アンケート形式だから。徹底しているとはいいがたい」
「では、確実なデータはないものの、がん患者の生活として食事制限をしている傾向にあり、医師も指導している、ということですね?」
「そうね」

こういう会話は今では当たり前だが、当然最初からは出来なかった。
むしろ最近だと言っていいかもしれない。

最初誰しも、知らないところから始まる。
質問の仕方すら分からない。
しかし、真剣に取り組むと、一つ一つの失敗から学ぶことになる。
知識だけでなく、相手とどうコミュニケーションを取りたいか、それはどういった関係になりたいのか。相手は何を望んでいるのか。

私の主治医は、神の様に万能ではないが、私のよきパートナーであり、乳がん治療においては最善を尽くしてくれる。
が、それは依存した関係では成り立たず、私から適切なリクエストを絶えず送り続けなければならない。
また、私のリクエストはいつも聞き入られるとは限らず、基本的には彼の腕を信用するしかないのである。
私は、信用できる医者に出会えて、本当に感謝している。

彼が名医である、と言いたいわけでも、自分の運が良いことを言いたいわけでもない。
主治医が私に歩み寄ってくれ、私も失敗しながら努力した。
医療は技術あってこそだが、技術だけではない。
この関係性そのものが医療行為のベースであると、今は確信を持って言える。
患者が積極的に参加してこそ、医療なのだと思う。

もし仮に、今のようにコミュニケーションが取れなければ、外の会話が出来る医者を探すこと。
これが患者には必要なスキルだと思う。


次回の検診は12月になる。
脳のMRIを撮影する。
前にも書いたが、私の乳がんのタイプの場合、抗がん剤がよく効くらしい。が、脳への転移が一番可能性がある。
脳への転移で腫瘍が2cm以下なら、サイバーナイフ放射線治療)で焼ける。
しかし3cm以上なら、開頭手術になる。
開頭手術になると大手術だし、手術そのもので生存率がかなり下がる。
転移してるかもしれないし、転移してないかもしれない。
わからない。
どちらにしても、可能性がある限り覚悟をしようと思った。

その後、来年になったらCTを撮る。
こちらは再発しているかどうか、体内での転移があるかどうかのチェックだ。
ここにいたり、私はやっぱりがん患者、サバイバーなんだな、と実感する。

主治医が「(僕の)教育がいいせいか、患者さんがしっかりスケジューリングしてくれるから良いわ〜(笑)」といっていた。
あはは。

自分の体は、自分も治療に参加しないとね。


患者仲間に、医師に、そしてこのブログを読んでくださってるあなたに、学ばせていただいたこれまでの闘病なんだと、実感した。

そして明日11/18、19時半から放射線治療の勉強会が東京であります。
http://yasuyukima.typepad.jp/blog/2010/10/adiotherapy.html
私も参加します。
楽しみ!
お忙しいとは思いますが、ustしますので、是非ご覧ください。


今日の記事は、先般お亡くなりになったしゅうさんに献呈いたします。
出会って短かったけど、本当にありがとうございました。

そして、私も最後まで、主体的にサバイブします。