黒い爪

抗がん剤の副作用で、内出血してるんだろう、足の爪が黒ずんでいる。
よくある副作用だ。
爪の根元が痛い。少しぶつかっただけで痛い。

最初は一部が、そして徐々に滲むように、爪全体を黒くしていく。
まだ全ての爪ではない。でもいずれはそうなっていくのかもしれない。

病って、見た目がすごく影響あると思う。
覇気がなかったり、顔色が悪かったり。
そして案外、爪って見られている。
ネイルをしていると、必ず声をかけられるからだ。
足元もそう。きちんとネイルしていると、「かわいいね」といわれる。

身体の一つ一つ、表情の一つ一つ、言葉の一つ一つが、自分を形成しているんだな、と思う。
ガンになって、女性性に気づかされた。やっぱり私は女なんだなぁと。
見た目にこだわるなんて、言葉遣いにこだわるなんて、気持ち悪いと思っていた。
美しく着飾ることに嫌悪感があった。
男に負けたくなかった。
男に負けたくないから、男になりたかった。

ふふ、今思ったら幼稚だ。幼稚な発想。
失くして気づいた。私は女なんだって。
男性にこびるみたいでいやだったから、着飾るのがいやだった。
でも違った。

美しくあることは、健やかであること。
化粧をして、美しく見えるのであれば、それはそれで一つの手段だって思えてきた。
素顔が美しければ、この上なくよいことだ。
造形的にではなく、健康なのはそれだけで美だから。
だから爪が黒くなることは、いずれ治ると分かっていても少し悲しい。

せめて、健康そうでいたいから。


これから歳を取り、しわも増え、しみもふえる。
それも美しい。
細胞的には死に向かうけど、中身は豊かに増えていきたい。
女性として、美しく豊かでありたい。活き活きと生きてたい。
素直に今ならそう思う。