異形の形 心の象

3回目の抗がん剤から1週間。
やっと胃が普通になってきた。まだコーヒーなどの刺激物は受け付けないけど。

起き上がれるようになった。起き上がっても頭痛がする。

この1週間で2キロ近く減った。これも頭痛の元になっているかもしれない。
食べようと思っても食べられない。
水も受け付けないことがある。


それでも何とか、FECといわれる抗がん剤3回までこぎつけた。
思えばここまでくるのに、告知から4ヶ月近く。
手術から2ヶ月。
早いようで長い。長いようで早かった。

最近は時間に対する焦りもなくなった。力みもなくなった。
どうしてだろう。
手術の前は怖かった。
手術後は痛かった。
これでよくなるという気持ちと、治らないんじゃないかという恐怖とが波が交互に押し寄せるように気分がハイローした。


私にとって癌になって一番きつかったのは、見た目が変わっていくこと。
転移寸前だったけど、先生が取ってくれた。
だけどそれで、胸をなくした。
どうやら相当、私はこの体に執着しているらしい。
いや、この体というよりも、女性ということにかもしれない。
女性として魅力的だからではない。女性ということが私のアイディンティティの中で重要だからなんだと思う。

胸がなくなって、体の重心のバランスが崩れた。まっすぐ立てない。
猫背になって、他の関節がきしみだす。
足も筋肉が衰えて、細くなった。(うれしくない)
手術した側の腕は浮腫んでいる。
腹筋は衰えている。
切らずに済んだ左胸と、切ってほとんどなくなった右胸は、 大人の女の胸と小学生の胸くらい違う。

そして髪の毛。まさかここまで印象が変わるとは思わなかった。
かろうじて眉毛やまつげは残っているが、それ以外の体毛は抜けまくっている。
腕も、足も。
自分で思う。「普通の私じゃない」と。
今でもお風呂は苦痛だ。髪の毛が大量に抜けるのと、ない胸が鏡越しに、洗うたびに、目に飛び込んでくる。
当たり前に思う体の形状が、自分の医師とは関係なく変化していくのは辛い。
形が変化していって、哀れな格好になるのもそう思われるのもいやだったし、かつらをかぶることにも抵抗があった。

要は「自分が変わることが嫌」だったんだと思う。
自分だけは変わりたくない。回りは変わってほしいし、醜い自分を黙って許容してほしい。
私は病気だからと、我侭な気持ちになっていたのだと思う。


どうして今落ち着いているのか。
やはり、いろんな人のバックアップがあってこそだと思う。
毎日励ましてくれて、私の生活を支えてくれて、言葉をかけてくれて、黙って手伝ってくれて。
もしかしたら、前はそういったことを「当たり前」と思っているところがあったかもしれない。

いろんな人の意見。同じがん患者でも感じ方が違うし、健常者でもそうだ。
投げかけられる言葉も、人それぞれ。でもそこには「共通の気持ち」がこもっている。
「元気になって」と。


本当の成長って、出来ることが増えることでもスキルが深くなることでもなく、自分の感じ方が広がることなのかも知れない。
自分以外の多様性を認め、自分に取り入れることなのかもしれない。

私の心の象(かたち)は、前とはもう違う。それが今は心からうれしいと思う。

DOC(ドセ)はもっと髪が抜けるらしい。さらに今度は白血球激減とリンパ浮腫の危険性。
さて、どうなるやら。

そのときにならないと分からないことは、そのときになってから驚きましょう。
そう思えるようになった自分が、少し誇らしい。