リスクは背負って初めて分かる

今日は白血球がどれだけ下がったか、血液検査を受ける日だ。

血液採取後、かなり待たされた。
主治医に会って、結果を聞いた。
私の白血球数は、3500だといわれた。

これは多分ぎりぎりの数字だろう。
しかし白血球の基準値がこんなにいい加減なのか?

Wikipediaより。

白血球数の基準値 末梢血内の白血球数は個人差が大きく、また一個人内でも短時間で変動する。その為に検査機関ごとに、あるいは成書ごとに基準値の設定には差があり、基準下限値は3300から4000/μl、基準上限値は8000から11000/μlと幅がある。新生児では20000/μlを超えることも珍しくない。また新生児から乳児期にはリンパ球の割合が高く70%程度になる。
もらったデータの紙からすると、うちの病院では4000-9000をひとつの基準とおいている。
私はそれよりも低い。
でも主治医は
「さすが若いね!次も抗がん剤いってみよー」といっていた。※適当な言葉を使われますが、いい加減な人ではありませんので。あしからず


主治医に質問した。
「まだ生理がくるんですか?ホルモン治療はいつするんですか?」
抗がん剤が終わってから。でも生理はあと2回の抗がん剤のうちに止まると思うよ」

「FECだけじゃなく、DOCもするんですか?」
「そうですDOCまでします。」
「トリプルネガティブでもですか?先生効きにくいっておっしゃってましたよね?」

「そう。トリプルネガティブでもします」

そうなのか・・・。抗がん剤治療を嫌がっているわけではないが、この先どんな治療をするかの道標が知りたかった。

主治医が話し出した。
「トリプルネガティブって言うのはね、抗がん剤が効かないってわけではないんです。データを取るでしょう。そのデータって言うのは、全てのタイプを入れるんです。トリプルネガティブだけ取り出してデータを作ろうとすると、バイアスがかかる。それは正確なデータとは言わない。また、トリプルネガティブ専用の抗がん剤もあることはあるけど、まだちゃんとしたデータがそろってないんですよ。」
主治医の話は専門用語が多くて必死で食らい付くが、概ねこんなことを言っていた。

「でもね、大事なことは抗がん剤を打つこと。抗がん剤をしないケースは、予後が悪い。抗がん剤をしている人のほうが生存率も高いんです。」
そうなんだ・・・。

正直生理の話は、まだ来るのか・・・と思った(笑)
手術直前に生理が来て、そのときは世も末よと思っていたのでもうこれで終わりだ、女として終わったなー、さよなら生理。位に思っていた。
あと数回くるなら生理用品を用意しないとなぁ、と思った。

そして抗がん剤
抗がん剤は親戚一同が皆やめろといってきた。白血球を殺す抗がん剤は、やっても寿命を縮ませるだけだ。手術したならそれで良いじゃないか、と。
私は言い訳として、「ガン難民になるから、抗がん剤も受ける」といった。

本心は、それだけじゃない。

やっぱり、主治医に言われたことが気になる。
「癌は目に見えない。電子顕微鏡で見る」
手術前に、腫瘍だけが癌ではないんだと初めて認識した。特に乳癌は。

術後、まだ体の中に目に見えない癌がいる。本能的にそう思った。
そして、漢方薬だけでは抑えられないかもしれないと思った。
どちらの効能も信じている。でもデータがほしい。裏づけがほしい。
西洋医学では補完できないところを、東洋医学に期待している。


今日は傷口に炎症があるらしく、抗生物質を飲んだ。これだけ薬漬けの中に、さらに薬。
少し陰鬱な気持ちになった。


家に帰って、抗がん剤投与について調べた。

抗がん剤の使用方法に関する基本的な考え方−抗がん剤の投与量、投与間隔をきちんと守る http://www.gsic.jp/anticancerdrug/ac_01/01/
リンパ節に転移のある乳がんに対して、根治的乳房切除術を受けた386名の患者さんを、再発防止を目的とした術後補助療法として抗がん剤治療を受けるグループと、受けないグループに分け、その後に生存した患者さんの割合を20年にもわたり観察した結果が報告されています。抗がん剤治療は、*CMFと呼ばれる3種類の抗がん剤を併用して投与する治療で、月毎に12サイクル続けました。
私のケースとは違うが、参照として見れると思う。
この結果は、転移のある高リスクがん患者さんにおいて、手術後の早い段階から補助療法として抗がん剤治療を行うことが有効であると共に、抗がん剤治療はあくまで決められた用量をきちんと計画どおりに使用することが重要であることを示唆しています。 (図1)。
主治医の言葉を裏付けるデータが、ひとつあったということだ。

そしてそのデータはさらに続く。
なぜ抗がん剤をきっちり打つのか。それはやっぱりがん細胞が増殖しているからだ、という。
また、こうある。
この考え方によると、抗がん剤治療が効果を発揮し、ある程度、がんが小さくなってくると、その反動として、残っているがん細胞の増殖速度が逆に速くなることが考えられます。
小さくなっているのに、逆に増殖するスピードが速くなる。
後半になればなるほどきついと聞いていたが、それは癌を殺すスピードも速くなるということなのだろうか。
このように見てみると、がん、とりわけ乳がんの術後補助療法と悪性リンパ腫抗がん剤治療の基本は、なんと言っても決められた用法・用量どおりにきちんと抗がん剤を使用することかと思われます。
癌は転移するからこそ怖い。特に転移しやすい癌は。
主要臓器に出来ていなくてまだ良かった。
しかし、この専門サイトには別のページにショッキングなことも書いてある。

乳がんについて
http://www.gsic.jp/cancer/cc_18/index.html

中には外科手術の図解入りページもあるので、気持ち悪い人はご注意してみてほしい。
※ちなみに私はこういう外科的解剖的ページはまったくだめな人なので、見ていません。

乳房の切除について、私はかなりショックを受けた。
抗がん剤を術前に打つと、主要が小さくなって乳房を温存できるメリットがある。
それが主流になりつつあると書かれている記事がある。
しかし他方で、全摘を考えるというページもある。

胸を取ってしまったことを後悔しているんじゃない。
これは私の主治医が、最善を考えてくれたと信じている。
それにいまさら手術した後で、四の五の言っても仕方が無い。
私がショックだったのは、これだけ色々な記事が専門サイトでも乱立していることにびっくりしているのだ。

特にこの記事。
●治療目的を明確に持って、乳がんと向き合うためにこれだけは押さえておこう! 乳がん薬物療法の基礎知識
http://www.gsic.jp/cancer/cc_18/mdc03/index.html
抗がん剤治療は術後より術前に行うのがお勧め」 術後治療の場合、すでに手術でがんを切り取った後、つまり目に見えるがんがない状態で抗がん剤による治療を開始するので、薬が効いているのかどうか、医師にも患者さん本人にもわからない。再発を防ぐのが目的だといっても、効果がわからないまま治療を続けるのは大変だ。その点、術前治療なら、効果があった場合にはがんが小さくなる
これは私が専門家から聞いている話と違う。
これでは患者は戸惑う。
どちらが正しいのだろう。

「誰を信じるかだと思う」といわれて、患者は何を信じるか。
私はこう答える。
「自分の都合やありたい姿に合わせて信じる」と。

乳房を温存したい気持ちが強ければ、それを信じるのではないか?
実際私がそうだった。
でも私の主治医はそうさせなかっただけのこと。強制されたわけではないが、手術前の私は依存的考えだったのと、実際主治医がそうしなければ私は助からなかっただろうというのと両方気持ちがある。

目の前の医者を信じろ、というほうが難しい。患者はそういう精神状態に無いことを、医療関係者には言いたい。
また、盲目に目の前の医者だけを信じることが果たして正しいだろうか?私はそう思わない。
主治医を選択したことは、後になってよかったと思えるが、当初は疑ったこともあるのは正直な気持ちだ。
主治医は自分の仕事にコミットした、いい医者だと思うが、決して説明上手だとは思わない。むしろ「患者は黙っていうことを聞きなさい」というところがあるのではないだろうか。恐れず言うが、そういうところも必要だとも思う。そして、それが改善点であることも。


患者が総合的に判断するのは、はなはだ難しい。それを患者だけにさせるのは酷だ。
そして患者の家族というのも、これもまた厄介だ。
先に書いたように、私の家族や果ては親戚までも、抗がん剤には反対なのだ。
私がもっと進行していて、体力的にも思考的にも衰えていたら、果たして自力で抗がん剤を選択しただろうか?

患者がいつも主体的であることは難しい。
そして決断は、全て患者が背負うリスクである。
それは普通の生活でも同じ。違うのは、いつ死ぬかってことだけ。


そしてさらにショックな記事が。
●トリプルネガティブは術前の抗がん剤治療が重要
http://www.gsic.jp/cancer/cc_18/tnbc/02.html

ここまで来て、私の気持ちはこてんぱんにされた。少し腹が立った。
何度も言うが、主治医にではない。彼は私の運命共同体だから。

腹が立つのは情報が乱立することなのだ。
「全てのがん治療に共通することですが、とくにトリプルネガティブの場合は、術前の抗がん剤治療が非常に重要になります。目の前のトリプルネガティブの患者さんが、どの抗がん剤が効くのかを判断するのが難しいからです。ですから、2カ月間抗がん剤治療をして、その成果が表れなければ、薬を変えるなどフレキシブルに対応して治療にあたる必要があります。また、術後の再発防止などに対しても同じです。予後のためにも、術前の抗がん剤治療に積極的に取り組んで欲しいと思います」
2ヶ月?
私多分、あれから2ヶ月抗がん剤打って効果が無かったら死んでるよ。
それは今だから思うけど、これを術前に読んで「そうなの?切らなくていいの?」と思ったらその選択をしたくなる。


抗がん剤についても調べた。
私の使っている抗がん剤は以下の通り。
●5-FU http://www.gsic.jp/medicine/mc_01/5_fu/
ファルモルビシン(一般名 エピルビシン) http://www.gsic.jp/medicine/mc_01/farmorubicin/
●エンドキサン(一般名 シクロホスファミド) http://www.gsic.jp/medicine/mc_01/endkisan/index.html

エンドキサンにいたっては、またまた衝撃的な文分を見つけた。
本来は、がんを抑える作用のある抗がん剤ですが、エンドキサンには、同時に、新たながんをつくる発がんリスクとなる可能性も指摘されています。長期投与した患者に急性白血病、骨髄異形成症候群、膀胱がん、悪性リンパ腫腎盂・尿管がんなどが発生したとの報告があります。現在このような2次がんについては研究が進められているところですが、抗がん剤治療終了後も、この点に注意した経過観察が必要です。
抗がん剤なのに発がん性があるなんて・・・あまりにも、あまりもじゃないか?

まあこれもいっても仕方が無い。
抗がん剤の投与をやめれば、目に見えないがん細胞が増殖する。
今のところ、有効であろう手段をとっていることにはまず間違いない。
そう信じている。


私は、自分がいかに恵まれた環境にいるのか、痛感した。
教えてくれる専門家がそばにいること。
東洋医学の専門家がいること。
なにより自分がネットの仕事をしていてこれほど良かったと思えることは無かった。
しかし恵まれているにもかかわらず、こうやって一つ一つの記事に心が揺れるのもまた事実なのである。

情報は判断してこそ意味があるけど、その判断に誰しも自信があるわけではないと思う。

教えてくれる主治医以外の専門家がいない患者。
痛みにずっと耐えている患者。
ネットの情報に振り回される患者。

想像しただけで心が痛む。


出来ることは少ないから、という記事を書いた。
「知識は今自分がどこにたっているのかを、冷静に判断するために必要。」
と書いた。
ぜひ、健康で冷静な判断が出来るうちに、色々調べてほしい。

一度患者という立場になってしまったら、いかに弱弱しいか。
憐れんでほしいとか、患者という立場に酔ってるとか、全然そんなんじゃない。


患者になったら主治医が全てになる。そういう側面がある。
言われるがままになってしまう、精神の弱さがある。
進行がんだったら考える余裕なんて無い。

私だって、いつも前向きじゃない。落ち込む時だってある。
そういうときに限って、「医者を信じられないのか」「周りに感謝していないのか」という言葉を投げられる。

これこそ患者にならないと分からない。
でも患者になんてなってほしくない。


人はその立場では無い場合、好きなことを言う。
しかしいざその立場になったとき、果たして好きなことをいえるだろうか。


自分の経験を経て、物事が理解できるって言うのが人間じゃないんだろうか。
自分が弱い立場にいるとき、果たしてどれくらい冷静に考えられる人がいるだろう。


もしかしたら、何も知らずに医者の言うとおり黙って治療を受ければいいのかもしれない。
それもひとつの判断。そして、賭けだ。

知るもリスク。
知らないもリスク。


私は今、自分の治療法を手探りでひとつづつ、「これでよかった」と思えるように、自分で持っていっているのは事実だ。そのために今調べている。それは自分に都合のよいデータを探しているといっても良いだろう。ひとつは信じたいから。しかし真実も知りたい。
この手探りをしている心境を、うまくは伝えられないが、とにかく必死であることは間違いない。

そして、私のこの経験が、癌にかかってしまった人に役立ったら本当にうれしい。
癌なんかなくなれ、と心底思う。
でも、多分人間が長寿になっていくほど、ガンは無くならないとも思う。
若年傾向がある乳癌なんかは、特に。

だからこそ、私は記録に残す。

誰かの役に立ちますように・・・。悲しい願いだ。