できることは少ないから

腑抜けのように毎日寝ている。
免疫が下がっているので、1度の外出が体に堪える。

おそらく、私と直接コンタクト(会っている)をとっていない人は、私の衰弱ぶりに驚くだろう。

ネットはそういう意味でいい。
元気じゃない顔は、あまり人には見せたくない。

さて、色々思うことはたくさんあるが、特に思うことは、やはり病は人がなり、医療は人によって施されるということだろうか。

そして病気になったことがない人は、想像力がなかなか発揮できないことが多い。
自分の経験からもそうだ。
ドラマ等で見るような、きれいなもんじゃない。
もっと必死だし、現場は阿鼻叫喚だ。

今日も病院で水を抜いてもらったが、たくさんの女性が主治医を訪れていた。
年齢も若かった。
私はその姿を見るたび、祈りたくなる。

彼女が乳ガンではありませんように…。

美しい女性が、パジャマ姿で主治医を訪れた。入院患者であろう彼女、カテーテル以外にも管が色々ついていた。
恐らく現時点で、自力排泄不可なんだろう。


ガンになったら、あなたはどうするだろうか?

わめく?騒ぐ?泣く?調べる?お金を用意する?
案外なにもできない。
事前準備してる人は少ないと思う。

まさか。わたしが。
これが大抵の反応じゃないだろうか。

ガン患者になって、大事なことがあると思った。

1.知識と認識
2.医療施設の選別
3.精神安定

人間の死とはなんだと思うだろうか。死の条件。
・心肺停止
・主要臓器の不全
これは大雑把ではあるが、外れてはいないだろう。
自力歩行できなくても、腕がなくなっても、胸がなくなっても、直接死に至るわけではない。
一部体を失うことにより、寿命が短くなることもあるだろうが。

ガンでは死なない。
ではなぜガンが怖いのか。

転移するからだ。
転移して死に至らしめる。

ガンは私の体そのものだ。そこに巣食っている。
胸を食いつくして、今度は全身に飛びかかろうとしている。
そんな状態だった。

手術は本当に始まりの一歩だった。
ガン細胞は目に見えない大きさで活動し、今私の全身に潜伏している。
正直、手術より抗がん剤治療はしんどい。
まだ副作用は少ないが、精神的に鬱にさせる。
これをあと半年…長い。

最初は手術が怖かった。体を失うのも。
手術そのものが、死の影を思わせた。

バカだろう、と思う。
治療方針を聞いてはいたが、どこが重要なのか、本当に理解できていなかった。
治療を進めていくたびに、ガンを知る。
今が一番重要だ。恐らく、このあとの放射線治療も。

今も昔も、それほどやり方としては変わっていないのかもしれない。
薬や手術の術式などは、劇的によくなっただろう。でも、それもこれも人がすること。
たくさんの犠牲と、たくさんの医療者と。

知識は今自分がどこにたっているのかを、冷静に判断するために必要。


私は自分が今、ほんとにラッキーの上になりたっていると実感する。それは自分が知らずに選択した、医療施設だ。

他の医療施設を知らないけど、たぶん引けを取らないだろう。
大学病院も検討したが、事務方の対応がいまいちだったのでやめた(笑)
※たまたまだと思う

車を使わず、近いところでたまたまあった。

病院嫌いで、自分だけは病院に一生世話にならないと勝手に思っていた。
そんな自分に当たった幸運。

今一度、自分の回りにどんな病院があるか調べた方がいい。
これは恐らく大きな命の選択になる。


ガンになったら、主に人間関係を大きく変化させる。
元々あったものが、浮き彫りになるといってもいいかもしれない。

家族。
一緒に戦うはずの人が、うまく話ができない。
こういうことも事実としてある。
実際入院しているときに、様々な家族を見てきた。
医療者。
専門用語が多くてわからない。
心配させないために、説明を曖昧にする。
そういうこともある。
医療者も患者とどう接するかは、ずっと課題であろう。
金銭面。
ガンにはお金が必要だ。
ガン以外にお金が必要だ。
仕事活動を停止するなんて、思いもよらなかった。
健康なら稼げるが、ガンになって稼げる人はまれだろう。
将来。
社会復帰できるだろうか。
再発しないのか。
仕事はあるだろうか。
自分のポジションはまだあるだろうか。
体。
もとには戻らないからだ。
もう魅力がなくなるんじゃないか。
自由に動かないんじゃないか。
胸だけじゃなく、腕も戻らないんじゃないか。

心配事は、あげるときりがない。
これらにいちいち悲しんでいては、ガンと戦えない。
しかし、これらは一気に津波のように来る。
人間が、一番弱いときに来る。


人は、元々できることは少ない、と思う。
スーパースターのような人も、そう見えるだけで、私と同じ人間だ。

できることが少ないときは、できることをする。

焦らない。
感情に流されない。
リハビリをする。
心地よくいきる。

そしてこれらが難しい。

難しいがやらねばならない。

私はラッキーだった。

今の私を支えているのは、医療者だけでなく、私を支えたいと思ってくれた人たち。
私の今の意思は、支えてくれた人たちの後押し。
教えてもらい、咀嚼してもらい、たたせてもらった。


欲張らず、できることをする。
いきることを楽しむ。

私は、健康なときにはできていなかった。

だから是非、健康なうちに考えてほしい。