退院の朝、新しいからだ

今日の朝、退院した。
退院の朝は、雨がやんでいた。

この日、わたしは初めて自分の傷口を見た。
怖くて見れなかった。しかし風呂にも入るし、この体と付き合わなくてはならない。

主治医もそうだが、担当看護師もなかなか積極的な人で、「見なあかんよー」と、付き合ってくれた。
トイレに大きな鏡が設置されているので、トイレで見た。

わたしは手が震えていた。

本当に恐る恐る見た体…思った以上に、メスのあとは少なかった。
しかし、明らかに左右差がある。
なにより、脇の傷がかなり痛々しい。これはリハビリしないと動かなくなると、直感的に思った。

唯一救われたと思ったのは、乳首があったこと。
実は全摘出かと思っていた。胸の膨らみの違いに。
乳首もないのかと思っていた。
だから、正直凄く救われた。

医師には色々な考え方があって、大きくは抗がん剤を術前後どちらにするかで別れるのではないだろうか。
ちなみに、友人は術前に抗がん剤を行った。彼女のレセプタータイプやグレードは解らないが、HER2も行っていて、センチネルにも転移があったようなことを言っていたので、そこそこ進行していただろう。
(ドーターの件は聞いていないので、転移・進行はわたしの方が進んでいると思われる)

抗がん剤で小さくして、最小の腫瘍を取り除く。そうすれば乳房を温存できるからだ。
しかし、抗がん剤は良い細胞も殺す。わたしの主治医曰く、「本当にガンが死んだかわからない」らしい。

それは彼女もいっていた。
それに、抗がん剤で体が弱っているところに、メスを入れる。これはかなり堪えるだろう。

日本では、乳房再建を同時に行える病院は少ないと聞いている。
自前の組織か、あるいは人工物かは置いておいて、手術をいかに手早く澄まし、傷を縫合し、体力的ダメージを最小にしておくことが大事か、ということを主治医はいっていた。
乳房の膨らみを維持するための欠陥や神経の繋ぎに、時間がかかると言う。
審美的外科技術と、腫瘍摘出外科技術は違うのであろう。

どちらにしても、医師には色々な考えや技術があるので、よくよく調べた方がいい。
私は、自分の主治医で結果的によかったと思う。
しかしあなたにとってベストの医師かどうかは、わからない。

乳首を残してくれたのは、主治医からの私へのエール。
できるだけ傷を残さずしてくれたのは、主治医が私に対して、抗がん剤を頑張ってほしいから。

ありがとう。



9日ぶりの外。
電車や車の音が、新鮮だった。
しかし、やはり大変だった。
すぐに傷が痛み出し、目が回った。
こんなに痛かったっけ…服を着るのも一苦労だったが、外を歩くのはもっと大変だった。
病院ではすべてフラットなので、外の少しの段差が上がれなかったり、勾配に足がもつれたり。
相当筋力が落ちている。
もちろん、傷がかなり痛いこともある。

情けなかった。が、仕方がない。
前はこんなことで泣いていた。でも、今は違う。出来ない私を受け入れられるようになっている。

外を歩くのは怖い。
人が何気なくぶつかる。それに対応できない。
相当動けない体。でも、必ず今以上の体を手に入れる。

できることから、はじめる。
できないことを手に入れるために。

まだ始まったばかりだぜ。

怖がりな私へ、個性的な私とやっと手を繋いでくれたね。