心の治療

夜中、おしりが痛くて目が覚めた。
寝返りを打てないので、同じところが痛くなる。
おしりに当てるためにタオルケットをもらった。
それでも痛い。

3時から結局寝られなかった。


6時、空がしらいできた。
朝だ。
ベッドでモゾモゾしながら、空を見ていた。
今日からリハビリだ。

時々、ベッドの中でも目眩がする。
立っていると熱が上がったように感じる。
それでも歩かなくちゃ。

午前中だけでも5週は回った。
肩甲骨を動かしながら。
手を開いて結んでしながら。

胸の傷の、皮膚が引っ張られる。
まだ息が上がる。
それでも動かさなきゃ。
リンパ浮腫が怖いから。

入院している病院は、かなり大きい。
東、西、南、北、中、と、高層棟がある。
今いるのは北で、リハビリは南棟に行かねばならない。
各棟へは一度2階に降りなければならず、さらに南棟には渡り廊下を行かねばならない。

2階は総合窓口になっていて、一般外来も来る。私が入院する前までは普通に通っていた場所だ。

私は自分が恥ずかしかった。
青白く、のたのた歩く自分。
パジャマでうろうろする自分。
普通に歩きたいのに。
病人のように歩く自分―病人なんだ。

改めて思い知らされた。

渡り廊下で、涙が出た。
何でこんなのになったんだろう。
何で手術したんだろう。
何でガンなの。

よたよた歩きながら、リハビリセンターにいった。
センターには主に、高齢者のかたが訓練をされていた。
私は医学的には若年層らしく、センターで目立った。
ドレン(傷口に溜まる体液を外に排出する器具)も目立った。
高齢者は楽しそうだった。
みんな訓練が励み、という風だった。

私の担当は、美しく若い女理学療法士だった。
彼女は優しくリンパマッサージを施してくれた。
看護師もそうだが、ここの医療従事者は優しい。外来の時よりも遥かに。
決して嫌な顔をしない。優しく語りかける。
皆パワフルだ。休む時間もないだろう。

リハビリをして、少し心が軽くなった。
なぜだろう。
たぶん体が軽くなったせいだ。
思えばいつも緊張していた。
気が抜けなかった。
いつも眉間にシワを寄せ、緊張していた。

自分の病棟に帰ると、アラートの音がする。
ネームプレートを見たら、何となくわかる。
重篤な人、そこまでいかないが注意する人。
心拍数を図る機械が常についている。

それを見たとき、正直に言おう。
生かされていることを強く感じる。

命の順番。
命を救ってくれる主治医。
応援してくれる人々。
どうしてあんな…なんで手術受けたんだろうなんて思ったんだろう。
受けなかったら、死んでる。

生かせてもらったことを忘れてはいけない。

こんな状態になってもなお、偏見から逃れられないんだな。私。

頭も洗ってもらった。少しさっぱりした。
傷口はまだ見れないけど。
もう少し、リラックスしてリハビリしよう。
体も。心も。