心の波

覚悟を決めてから、感情面で揺れることはなくなったと思う。
だけど、恐怖心はまだなくならない。

楽しい時間かどうかと言うよりも、私自身が「忘れる」時がある。逆にすごくナイーブと言うか、落ち込むときがあってそういう時は何をしてもだめだ。

ここのところ、実は寝れていない。
夜になると恐怖が押し寄せてくる。
前はこの恐怖心に感情がくっついていた。泣いて泣いて泣きまくって、そして余計につらくなってどうしようもない感情を抱えていた。

今は感情面での波は去った。
でも恐怖は残っている。

恐怖とは、死ぬ恐怖。
選択肢を失敗する恐怖。

誰かを信用していないとかではない。しかし恐れている。
今の私はひどい顔をしている。やつれて、青白い。目は疑いの目をしている。
今日は正直すごく疲れた。今日のことではなく、今日までのことが疲れた。



髪を切った。
主治医に「もっと髪を切ったほうがいい」といわれたのもあるし、やっぱりいつも身奇麗にしたほうが良いかな、と思ったのもある。
でも今日は、ネイルをしたときのように元気にはならなかった。
もともと短かったのもあるし、私にとって「髪を切る」のは「決断力をつける」と言う意味もあるから。
そして、やはり、髪を切ったら引き締まった。
どうも私にとっては、髪型はファッションではなくスタイルらしい。


手術を何度も経験されている人はすごいと思う。私は出産くらいで、入院をしたこともないし。点滴でも怖いと思っているくらいだから・・・。

いつもヘアカットを担当してくれている人にガンだと言うことを告げたら、彼女のお父さんは脳の、お母さんは甲状腺のガン・サバイバーだと教えてくれた。
正確には、お父さんはもうなくなられていた。初発から7年目の再発で。
お父さんの頭部には、線が描かれていて、その線に沿って放射線治療をしていたようだ。
彼女にはそれが印象的だったらしい。
お母さんはご健在だが、首元には手術痕があるそうだ。そしておなかにも。
彼女のお母さんはなんと、ステージ5から生還されたらしい。
ステージ5とは、転移しガンの末期にあたる。

彼女は一人っ子。彼女のお母さんも、私と同じ立場で、彼女は私の息子と同じ立場。
彼女も何か感じているだろう。いつもよりぐっと近くなった気がする。

しかし話をすればするほど、ガンサバイバーが身近にいる。
こんなにも・・・。


仲間はたくさんいるが、その仲間たちは皆孤独に戦っていただろうと思うと、つらかっただろうなと思う。
医師もいる。看護師もいる。家族もいる。友達もいる。
でも、戦うのはやっぱり本人なんだ。
本当のつらさは理解されないのはしょうがない。
これは愚痴ではない。「あなたたちにわからない」と言う気持ちで書いていない。


今は霧が深い川のほとりで、ひとり船を待つ気持ち。
やがて霧が晴れて、1隻の船がやってくる。私はそれに乗って、どこかに連れて行かれる・・・。

静かに、今は一人で待っている。そんな感じ。
自分の中に、恐れる気持ちも、事実を受け入れる勇気も、みんなのエールも内包しながら。

前のように、感情に揺さぶられることはない。
受動的に考え、揺さぶられることで事実を遠ざけようとしていた。
今はもうすこしだけ、能動的になったと思う。そして揺さぶられるだけの自分ではなく、揺さぶられながらも目はしっかり開けていると思う。