抗がん剤のやめ方始め方

データで見る抗がん剤のやめ方 始め方読了。
というか、ざっと読んだだけなので、また読まないと分からない。

近藤誠医師は慶応病院放射線科の医師。
一番有名な著書は、『患者よ、がんと闘うな』だろう。
私は読んでないけど。

日本で医師という立場でありながら、ガン闘病に対してかなりセンセーショナルなことを言っている。

この著書でも、抗がん剤はほとんど効果が見られない、という論調を、データを通して説明している。
副作用と毒性とを分けて考え、ガンで死んだ人のカウントの仕方を新たに定義しなおしている。
抗がん剤は発がん性があるものが多い。
抗がん剤の毒性で亡くなる人も、多いだろう。


抗がん剤が効果があるかどうかは、このブログではひとまず置いておきたい。
私はこの人が指し示すデータが、『生存率』に基づき結論付けているところが気になった。

がん患者になれば素朴に、「あと何年生きられるの?」と思うのが普通ではないだろうか。
この本は、がん患者にとっては厳しいかもしれない。
でも、私は思う。

自分に施されている治療がいったいなんなのかを知らずして、どうして医師を信頼できるのであろう。

私も当初、「完全な治療はないのか」と思っていたし、日本のがん治療に対して懐疑的になったりもした。
アメリカの治療法が素晴らしいという話を聞けば、アメリカ人になりたいとも思った。

今はそれは違うと思う。
一長一短はあるものの、どこの国でも現場は必死なのだと。
医療者を現場で見れば、分かる。
(必死さが感じられない医療者がいるとしたら、それは悲しいことである。しかし、私はそれは本当にごく一部だと信じている。ただ、ガンになったことのない医療者が、心底患者とシンクロするかというとそうではないと思う。そこは当然、そうなのだ。)

乳癌治療だけでも色々な種類があるが、術前抗がん剤をして、腫瘍を小さくしてから手術をする方法を、なぜ私の主治医が選択しなかったのか、不満に思っていた時期があった。

しかし徐々に分かってきた。
固形のガンにたいしては、手術で取り除けるかどうかが生存率に大きく関わってくると、今では思っている。
如何に早く転移する前に除去できるか。

乳ガンは(略)通常量の化学療法で、患者の10〜15%ほどに完全反応(しこりが消えて検査で発見できなくなる)が得られます。しかし、完全反応=治癒ではありません。それで必ずしも治ったということにはならないのです。なぜならば、がん細胞は非常に小さく、直径1mmのしこりでも100万個のがん細胞を含みます。ですから、検査で発見できなくなっても、がん細胞が消えたとは限らないわけです。 それゆえ固形ガンは化学療法では治らないとされています。
転移した癌は化学療法で治せない、ということらしい。
ただし、乳房温存療法後に乳房にだけ再発した場合は、再手術できるので除かれる。

この本を読み進めるには、ある覚悟が必要だと思う。

それはガンに対する、闘病に対する姿勢。
死を含めて、自分の人生を見つめられる覚悟。
自分の命を人任せにしない覚悟。

それにはデータが必要だ。
覚悟を決めた患者には、データを冷静に読み解く力が武器となる。
この本だけでなく、世にあるデータは全て武器にもなり、そして同時に傷つく材料にもなる。
信じ込むのではなく、判断の材料として使う勇気と努力が必要だ。

がん治療は非常に高度で、危険も伴う。
抗がん剤を点滴する技術も必要だ。
種類によっては、漏れて皮下に広がると組織が壊死してしまう抗がん剤も少なくないらしい。
だからうちの病院では、抗がん剤専門の看護師たちがいるんだと、納得した。

前に主治医が抗がん剤治療の有効性に対して説明してくれたことが、この本を読んで何が言いたいのかやっと分かった。
主治医もよく、あの短い診察の中で説明をしようとしてくれたものだ。

この本では、抗がん剤放射線を組み合わせた療法や、分子療法のデータも少し載せられている。

私が一番心に響いたのは、12章の「なぜ勘違いするか」の章。
人は弱いときに、何かを信じたがる。
自分を信じるべきだけど、病は人を弱くする。心も体も。
だからメディアや、インターネットや、医師の言葉を鵜呑みにしたりする。

医師を信頼するなら、やはりきちんと質問しなければいけないと思った。
共に戦うパートナーなのだから、患者にはパートナーを選択する権利があるし、お互いのことをもっとよく知らないといけない。
だからじっくり話せる相手と、時間の限りはなす必要がある。
現代の日本の医療現場では、かなり難しいことではあるが。
だから患者がしっかりと、短いセンテンスの中から情報を引き出し、理解すること。
相手を疑うためじゃない。
互いをしっかりと結びつけるために。


知識をつけるとき、ガンの治療法を探すとき、誰かを攻撃したいと思って調べてはいけない。
誰かの落ち度を探してやると思ってはいけない。
そして、
ガンになったとき、覚悟を決めるべきだと思う。
共に生きる相手なのだと。一生を共にする相手なのだと。

データも知識も、味方につけるために在るものであり、味方にするかどうかは本人次第なのだ。


私は再発・転移が恐ろしかった。
それは死に直結しているから。
しかし、今はもう少し違う目線で観る。

ガンは病気だけど、私の組織の一部でもある。
この病気は、死ぬまで抱えないといけない。
だから共存すること、共に生きることを前提に、今は考えている。

ガンは恐ろしい。けれど私の一部であり、一緒に生きていく相手なのだ。

しっかりと冷静に、学び続けること。
これがほんとうのがん治療の始まりなんだと思う。


最後に。
先に逝ってしまった先人たち。
ガンの先輩たち。
あなたたちのデータを、ありがたく活かさせて頂きます。
敬礼。